色のない緑色の考えは曖昧に記述する

色のない緑色の考えは曖昧に記述する

本・ゲーム・映画等感想レビュー及び雑記

小説紹介:冲方丁「オイレンシュピーゲル」なんか世界とか救いてぇ……

シュピーゲルシリーズについて

※この項目はスプライトシュピーゲルと同様の内容です。
冲方丁による複数の出版社を跨いでシリーズが同時刊行されたシュピーゲルシリーズ。
刊行元的にはライトノベルだけれどもいろんな意味で冲方丁節が炸裂し絶望の中から一縷の希望を探すような描写が多く見られます。
またクランチ文体が多様されスピード感のある作風になっています。
シュピーゲルシリーズはオイレンシュピーゲル」「スプライトシュピーゲル」「テスタメントシュピーゲルの3作品全13巻から構成されています。
オイレン、スプライトが同時に刊行され時間軸を同じくして作中でも両者の物語は交差しながら進んでいきます。
ですからオイレンシュピーゲルが1-A、スプライトシュピーゲルが1-Bそして2つの作品の完結から10年近くかかり完結したテスタメントシュピーゲルが両者の続編となり完結編となります。

今回紹介するのは1-Aにあたるオイレンシュピーゲルになります。

舞台は西暦2016年の国連管理都市ミリオポリス(かつてウィーンだった国)。
サイバーパンクな世界観でサイボーグ化や兵器技術AI技術が現実よりも進んでおり、また世界情勢も大きく異る。特に各国で戦争や災害により文化の保全が難しくなるような状況に陥っていたりテロリズムが加速したりしている。

ミリオポリスは極度の少子高齢化に犯罪やテロリズムの増加で児童の様々な労働が認められている。中には政府公認の児童買春なんてものもあったりする。

主人公たちはその中でも身体障害児のサイボーグ化が行われ国家の元、子供工場(キンダーヴェルク)で育てられ機械化を受けた児童の中でも都市の治安を司る職業などにのみ与えられる〈特殊転送式強襲機甲義肢〉=通称〈特甲〉を用いて職務を遂行する。
特攻は国の最上位に位置する演算ユニットであるマスターサーバーの許可を得た場合のみ転送を許可され使用が許される。
特甲は圧倒的な性能を誇り素手で岩を砕きビルからビルへと跳躍するなど超人的な能力を使用者に与え、また携行の不可能な重火器や兵器の運用を可能にし破損しても再度の転送によって瞬時に元の状態に回復したり痛覚を無効化したりすることができる。

主人公たちはその特甲の使い手3人×2の少女でそれぞれ違う組織に属し物語が進んでいく。

スプライトシュピーゲルの紹介記事はこちら

オイレンシュピーゲル

 オイレンシュピーゲルは治安を司る警察組織MPB=ミリオポリス憲兵大隊に所属する3人の主人公たちとそれを支える大人達によって物語が進む。
またスプライトに比べると激しい戦闘と彼女達の凄惨な過去や残酷な描写が目立つ。
主人公は「涼月・ディードリッヒ・シュルツ」「陽炎・サビーネ・クルツリンガー」「夕霧・クングンデ・モレンツ」の3人、中でも涼月は物語全ての中でも重要かつ一番のメインキャラと言っても過言ではない。
またシュピーゲルシリーズは主人公組だけではなく主人公達を指揮する大人たちも非常に魅力的な人物が多い。オイレンシュピーゲルの中では特に「ミハエル・宮仕・カリウス」は作中でも特甲児童との関わりが多く主人公たちを支え責任を背負う大人として描かれマジイケメン。

主人公である三人はMPBに所属する特甲を装備した遊撃小隊〉(ケルベロスでスリーマンセルを組んでいる。
主な任務は犯罪者の制圧と確保、過激な衣装に身を包みMPBの広報を行うキャンペーン任務。

だいたいクソふざけた犯罪者とそれに最新鋭装備を与えるプリンチップ社をしばく物語。

登場人物

 「涼月・ディードリッヒ・シュルツ」

f:id:camus_bdc:20200519105934j:plain

 シュピーゲルシリーズの主人公、遊撃小隊〉のリーダーで突撃手。14歳。

コードネーム「黒犬(シュヴァルツ)」通称「対甲鉄拳の涼月」
特甲の装備は両手足の超振動型雷撃器、戦闘スタイルはボクシングスタイルのインファイト
不屈の闘志が擬人化したかのうな精神の持ち主で短期。闘争心に満ち溢れて敵との一騎打ちを好む。容姿は黒髪単発で、黒目に非番の時は眼鏡でエキゾチック。ちなみに喫煙者で貧乳。トルコ系。

オイレンシュピーゲル組は全員過去にトラウマ持ち。


「陽炎・サビーネ・クルツリンガー」

f:id:camus_bdc:20200519105949j:plain

遊撃小隊〉の狙撃手。14歳。

コードネーム「紅犬(ロッター)」通称「魔弾の射手(フライシュッツ)の陽炎」
特甲の装備は右手と一体化した各種弾丸を使用可能な巨大な超伝導式スナイパーライフルと探査装置。

ニヒリストで皮肉屋。普段は冷静沈着でクールに振る舞っているが内心では二重人格のように差があってそちらは直情的。そちらは内心の独白のみで表面にはほとんど出てこない。情報マニアであらゆる手段を用いて情報を収集し目的の達成に邪魔なら情報と身体を用いて上官だろうと排除する。 とても14歳とは思えないスタイルの持ち主で赤髪・灰眼・イタリア系。ちなみにカオスな汚部屋の住人。

トラウマが一番エグい。

 

「夕霧・クングンデ・モレンツ」

f:id:camus_bdc:20200519110004j:plain

遊撃小隊〉の遊撃手。14歳。

コードネームは「白犬(ヴァイス)」通称「悪ふざけ(オイレンシュピーゲル)の夕霧」
特甲の装備は両手の指に搭載された液体金属とその硬化装置を用いて幅2ミクロンの殺人ワイヤーを操り相手を切断する。歌って踊れる殺人ミキサー。

金髪・碧眼のユダヤ系。天真爛漫を通り越した電波娘で全チャンネルにテロリストソングやら何やら事件の度に即興ソングを撒き散らすカオスの権化。

陽炎と同じく汚部屋の住人。

「吹雪・ペーター・シュライヒャー」

遊撃小隊〉の補助役でヒロイン。
MPBの所有する超高度演算装置のマスターサーバー〈刕(レイ)〉の接続官(コーラス)。

男子の特甲児童は基本的に軍に所属し戦地に派遣されるが極度の運動音痴とIQ130天才児童ゆえに特甲の転送を管理する接続官になった。

純真無垢な善意の塊で涼月に絶賛片思い中。

「ミハエル・宮仕(ミヤシ)・カリウス」

MPB所属の部隊〈怒濤(ドランク)〉中隊長で歴戦の狙撃手。

イケメンのおっさん。多分マッツ・ミケルセンみたいな感じ。陽炎は彼にお熱。
〉と任務での関わりが多くよく世話を焼いてくれる。

シナリオ的にも割と主要人物。

漫画版のは認めない。

 

最後に

Amazonの合本版が一年に何度か大幅なセール価格で販売されているのでその時が狙い目。
読み口は軽いが内容はしっかりしているサイバーパンクを読みたい人におすすめ。読め。他の冲方丁作品も読んでもらえると嬉しい。読んだら感想を貰えるともっと嬉しい。

 

 

 

小説感想・紹介:野崎まど「[映]アムリタ」

野崎まど

野崎まどという小説家を知っているだろうか?2009年に電撃小説大賞に新設されたメディアワークス文庫賞を受賞し新設されたメディアワークス文庫からデビューした作家だ。
彼女は一作目からその悪魔のような才能を存分に発揮し、電撃文庫ではそのユーモアで読者の腹筋を捩じ切り、ハヤカワ文庫から出した「Know」では第34回SF大賞候補作品、そして2017年にはアニメの構成・脚本、2019年にはアニメ映画の脚本とデビューとデビュー以降華々しい軌跡を描いている作家だ。

今回紹介するのはデビュー作である[映]アムリタだ。

あらすじ

主人公である芸大生(おそらく武蔵美)の役者コースに所属している「二見遭一」は同期生であり美人で気になっている「画素(かくす)」さんから自主制作映画の俳優として出演して貰えないかと声をかけられる。

下心から二つ返事で引き受けた。
その映画は学内1の天才と呼ばれる美少女後輩「最原最早(さいはらもはや)」が監督を務める映画だ。
絵コンテを受け取り読み始めると主人公は2日と半日ほど絵コンテを取り憑かれたように読み込み続けていた。食事をすることもなく、睡眠をすることもなく、排泄もすることもなくただひたすらにその絵コンテを読み続けていた。

あまりの出来事に製作者に絵コンテについて尋ねるとその絵コンテの原案は「最原最早」の死んだ恋人の遺作だと言う。
主人公はその背格好や顔がその死んだ恋人にそっくりだから代役に選ばれたそうだ。
悩んだものの主人公は映画撮影に参加していく……

ここまでが野崎まどの紹介と作品のあらすじ。

ここから先はネタバレやら何やら諸々を含む感想です

野崎まどは悪魔です。人は食べませんし生贄の儀式もしませんが悪魔です。
間違えました。悪魔のような作家です。そして素晴らしい才能の持ち主です。

本編はある意味SF小説とも言える作品です。最原最早の作る映画の作る映画は映画と言えるかは賛否分かれる。ただし映像作品ではあった。
彼女の作る作品はまるで実際にサブリミナル効果があるように人の心を直接動かした。感情そのものを操作した。

そんなものは現実にはありえない。だけれども「最原最早」はそれを成し遂げた。
正真正銘の天才と言えるだろう。
見たら死ぬかもしれない映画、そんなものがあるのであるのであれば、あるならば、私は見たいという衝動をきっと抑えられないだろう。

それはそれとして「最原最早」はかなりの変人で嘘つきだ。とても好みだ。大変すこ。
ビジュアルも含めて。

最後に疑問なのだけれども、「二見遭一」はいつ「最原最早」の映画を最初に観たんだろうね?
「二見」は映画を役者の演技で見ていたと表現されていたが作中では既に他の味方をするようになったとバイト先の店長に指摘されている。もしかして、「二見」は作品が始まる前に既に「最原最早」に作品を見せられていたんじゃないだろうか?
真実を知る術は無い。ただしそうだとしたら、最初から、映画撮影に参加することも仕組まれていたことになる。なんて出来ゲームで、「最原最早」の手のひらの上なのだろう。

メディアワークス文庫は手軽に読める文量で密度の濃い作品がとても多い。ジャンルを問わずバリエーションも多い。ラノベよりは真面目な文芸で最近のラノベに辟易した人でも楽しめるだろう。
何か軽く小説読みたくなった時にはおすすめだ。是非とも気になった作品を手にしてもらいたい。特に「野崎まど」「入間人間」「有川浩」「壁井ユカコ」「柴村仁」辺りの作者の作品がおすすめだ。

 野崎まどの新刊「タイタン」は2020年4月に刊行済みです。よかったら是非こちらもどうぞ。

野崎まどのメディアワークス文庫作品の終着点、「2」の記事はこちら

[映]アムリタ 新装版 (メディアワークス文庫)

[映]アムリタ 新装版 (メディアワークス文庫)

  • 作者:野崎 まど
  • 発売日: 2019/09/25
  • メディア: 文庫
 
タイタン

タイタン

 

 

 

小説紹介・感想「2010年代SF傑作選1」

 

「2010年代SF傑作選」について

本作は2010年代の総括として記念的に刊行された2冊の傑作選です。
1は2010年以前にデビューをした熟練のSF作家、2は2010年以降にデビューしたこれからを担っていくSF作家達による短編集だ。
1と2併せて20人20篇。編集者である大森望、昨年記録的なヒットを出した伴名錬の2名により選出されたベストアルバム的一冊と呼ぶに相応しい。
本作に選出されている作品はSFの中のジャンルを問わず10年代を代表できる短編。そして短編集等に掲載されているかは関係ない選出となっている。ゆえに本作のための描き下ろしは存在せずSFというジャンルに普段から触れている人ならば読んだことのある作品がいくつかはあるはずだ。
だが私自身がそうだったように刊行当時に読んだ時の感想と今読んでみた感想は大きく異るかもしれないので既読作品でも是非とも読んでもらいたい。

1と2どちらから読むかは読者の自由だ。アンソロジー的な短編集ゆえにそれぞれに繋がりは無く傑作の名に相応しい作品ばかりでどちらから読んでも楽しめるはずだからだ。

掲載作品

小川一水「アリスマ王の愛した魔物」

短編集として刊行された作品の1篇。2011年 第42回星雲賞・日本短編部門を受賞した作品。
とある架空の世界の王国に生まれた王子の六男で末っ子そして醜悪な見た目の「アリスマ」は六男ゆえに基本的に王家からは放置され自由に暮らしていました。王子は算術に優れた才能があり3つの齢には1000までの数字を数え上げその7日後には四則演算を習得してしまいます。
王子が7つのさい、星が王子のもとへと降り立ち人の姿になり王子の算術の才に大いに貢献したそうです。

この物語はアリスマが王となりそして算術を用いて世界を統べて行く物語です。
一見ファンタジーで寓話のような物語のように思えましたが読み込んでみると現代的な物語で最終的には酷く現実的で工業的かつファンタジー的な要素を用いながらも大規模な並列処理まで行っている。
その並立処理の方法がまた衝撃的だった。SF的な要素をファンタジーに置き換えてここまで物語として成立させるのは大変素晴らしく技量のいることで小川一水だからこそできてだからこそ星雲賞を取ることが出来たのだろう。

上田早夕里「滑車の地」

本編もまたどこかファンタジーを感じさせる作品。
鉄柱が多く立ち並び、鉄柱の足元には冥海という底なし沼のような人や植物が到底暮らすことの出来ない世界となり人々は鉄柱の上に住処を作り鉄柱と鉄柱を滑車と硬化炭素ロープで繋ぎ行き来している。
冥海には泥棲生物(ヒジ)と呼ばれる生物が済み鉄柱に卵を植え付け、人はそれをこそぎ落とすようにして処理しながら暮らしている。ヒジは時折鉄柱の上まで登ってきて食料庫を荒らすからだ。
アジサシ計画という他の土地がどうなっているか簡易な飛行装置により捜索する計画がある。主人公である三村と地下都市で育てられ飛行機のパーツ、もしくはパイロットとして購入されてきた少女(本人は獣と自身を呼ぶ)「リーア」によりアジサシ計画がどうなるかという物語だ。
ジメッとしており希望も絶望も垣間見える物語だった。この物語だけでは完結していないのかもしれないが作者の他の作品はリリエンタールの末裔しか読んだ事がないので私にはわからないが作風としては好みなので代表作の「華竜の宮」も近いうちに読んでみたいところだ。

田中啓文「怪獣惑星キンゴジ」

とてつもなく短編らしい短編と感じた。
とある星にある怪獣動物園(正式には怪獣ランド。ここではわかりやすさ優先で動物園とする)で殺人事件が起き、それを調査してほしいと頼まれた探偵がそれを調査する物語。
怪獣動物園の一番の有名どころガッドジラというゴジラ的怪獣はゴジラのような存在で怪獣の中でも目玉だ。
このガッドジラを見世物として体験させるために高給でガッドジラに人間の脳を移植し人を襲わせる振りを演目の一貫として行っていた。だがしかしその脳を移植したガッドジラ=ヒューマジラが何者かに密室状態で殺害された。
何故、どうやって、だれがとそれを調べるのが探偵の仕事だ。

仁木稔「ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち」 

コロナ禍の渦中にあるからこそあり得うる未来にも思える作品だった。
「アステリズムに花束を」収録作の「色のない緑」やharmonyのように世界が混沌とした後の世界に相応しい作品のように感じた(この作品がそういった疫病の後の世界という訳ではないが)
舞台は遺伝子工学が栄えた近未来のアメリカのような国。妖精という人工的に作られた子供のような姿をした人間の代替となる労働力が作られた世界。そして遺伝子工学が栄えているからこそ自然派主義と妖精を害悪とみなし破壊する派閥が存在する。
主人公は自然食品の店舗で働く青年だ。彼はエイプリルという金髪でツインテールの子狐を連れた女学生と出会い半妖精主義派へと傾倒していき……という物語。
アンドロイドやAI、人類の代替労働力が開発されれば避けられない予期できる未来。人ではないものだから動特性や倫理が働きにくく凶暴性の発露も大きい。いつの時代にだって新しい技術はこういった差別や暴力行為は起きうるだろう。できる限りそういった未来は避けたいものだ。

結末も含めて傑作選1の中でも最推しです。とてもよい。すこすこ。

北野勇作「大卒ポンプ」

コメントしにくいがホラー風味の作品だった。
舞台は戦後風の時代。とある新人社員が水抜き穴という部署に配属される。
その部署は地下に貯まる水、そこに浮かんでいる魚の死骸を回収することだという……
これ以上書くとネタバレになるので如何ともし難いです。

 

神林長平「鮮やかな賭け」

昨年戦闘妖精雪風の続編の執筆開始が発表された90年代以前からSF界隈を牽引してきたプロ作家の一人。
内容の説明はかなり難しく哲学的だが起きたこと自体はシンプルだ。賭けをする。私はわたしに全てをベットする。
読んでもらったほうが早い。何を言ってもネタバレになりそうだから。
でも私はこういうのとっても好き。

津原泰水テルミン嬢」

昨年(2019)に結果として早川書房から刊行された「ヒッキーヒッキーシェイク」をめぐり幻冬舎とのトラブルがありティーンズ向け小説を書いていた事実が多くの読者に知れ渡った小説家。作風も多彩で数多くの作品を出版してきている。
本作はレトロ風味な作品、なのだろうか?とりあえず身体改変SF。
私は著者の作品についてほとんど触れたことがないので評価しにくいが繊細な描写だと感じた。
内容は一定の条件が満たされてしまうとアリアを歌いだしてしまうという特異な症状を呈した眞理子と、その病気についての物語。
好みは分かれるかもしれないがレトロな感じの作風が好きならきっとハマるはずだ。

円城塔「文字渦」

円城塔は人類には早すぎると私は昔から評価している。好きだけれど理解はしきれない。
表題作の掲載された短編集の「文字渦」は第39回日本SF大賞を受賞。過去にも新人賞や最終選考まで残る、伊藤計劃との共同執筆作品「屍者の帝国」は33回SF大賞の特別賞や44回星雲賞国内長編部門を受賞など類稀なる才能を見せる。
数学やプログラムを文学的に表現するという奇抜な執筆方法を取り時にはページそのもので遊び始める。床下からフロイトがたくさん出てくるのだからやはり人類には早すぎるのかもしれない。
今作も私にはちょっとよくわからなかった。多分短編集として文字渦を読めば一連の流れとして理解できるのかもしれない。

飛治隆「海の指」

昨年刊行された零號琴と廃園の天使シリーズの新作の執筆開始で話題になった作家。
名前は知っていても私は詳しくない。何せグラン・ヴァカンスとラギットガールを積んでいるもの。
でもこの物語はグラン・ヴァカンスと同じく独特の世界でわりと私好みだった。だからグラン・ヴァカンスも読み始めたらきっと楽しいはずだ。
この物語は私は前情報無しで読んだほうがいいと判断したので内容については特に触れない。

 

長谷敏司「allo.toi.toi」

完結済みのラノベシリーズ「円環少女」、Newtypeにて連載されアニメ化もされた「BEATLESS」、もともとはラノベ作家だったが後に設定の凝ったSF作家へと転向(ラノベ作家とかSF作家という枠組みも何かバカらしいが)し「あなたのための物語」で第30回SF大賞の最終候補、第41回星雲賞で参考候補作に選ばれる。
主に人工知能を題材としたSF作品を描く。
本作は第35回SF大賞を受賞した「My Humanity」からの掲載。一連の流れにある短編からの掲載になるのでMy Humanityから読むのとこれ単体で読むのでは読み口が大きく異るだろう。
本作は小児性愛者にして性犯罪者に人工的に『好き』という気持ちを正しく矯正したらどうなるのかという内容だがこれ単体で読むと割と希望もクソもないのでどうして傑作選の最後に本作品を選んだんだ……と頭を抱えた。

ドS魔法少女と繋がりあった世界から主人公の住む世界に訪れる魔法使いとコロシアイになる「円環少女」、アンドロイドや超高度AIが一般化した世界で超高度AIを積んだAIと少年のボーイミーツガールを描いた「BEATLESS」はマジでおすすめ。
前者は電子書籍の合本版のセール時購入をおすすめ、後者は電子書籍でも紙でもどちらでもいいから買って読んでください。読んで。読め。

 

最後に

名編集者と重度のSFファンによって選出された作品はどの作品も濃厚でとても読み甲斐があった。
流石としかいいようがない。「なめらかな世界と、その敵」と同じく普段あまりSFを読まない人にでもおすすめできる一冊です。
特にSFにイーガンのような堅苦しいイメージを持っている方にほど読んでもらいたい一冊でした。
2についてもそのうち記事にします。

 

2010年代SF傑作選1 (ハヤカワ文庫JA)

2010年代SF傑作選1 (ハヤカワ文庫JA)

  • 発売日: 2020/02/06
  • メディア: 文庫
 
2010年代SF傑作選2 (ハヤカワ文庫JA)

2010年代SF傑作選2 (ハヤカワ文庫JA)

  • 発売日: 2020/02/06
  • メディア: 文庫
 

 

映画感想・レビュー「X-MEN:ダーク・フェニックス」

X-MEN:ダークフェニックスとは

2000年から続く20世紀FOX制作のX-MENシリーズの最終となる作品です。
X-MENシリーズには大きく分けて3つの作品ラインがあります。
1つ目は初期1・2・ファイナルディシジョンの旧三部作、2つ目はウルヴァリンを主人公とした「ZERO」「SAMURAI」「LOGAN」のウルヴァリン三部作、そして最後の3つ目は「ファースト・ジェネレーション」「フューチャー&パスト」「アポカリプス」「ダーク・フェニックス」の新四部作だ。

関連作としてはデッドプールや公開予定のニュー・ミュータンツもあるがこれらの作品は外伝というか単独作品なので今回は考えなくてもいい。

シリーズとしてはダーク・フェニックスを最後に、単独作品としてはニュー・ミュータンツを最後に20世紀FOXからMARVELに権利が戻ったためアベンジャーズ、つまりMCUシリーズに再編されることになるだろう。

「ファースト・ジェネレーション」から始まった新四部作は旧三部作の流れとは異なり「フューチャー&パスト」によって起きたある事件をきっかけに時間軸を改変し派生していく物語だ。その物語の最終章に当たるのが今回の記事の「ダーク・フェニックス」だ。
旧三部作のヴィランであったマグニートーやミスティークと強力する展開もあり旧三部作と比較すると面白いだろう。

ダークフェニックスのあらすじ

ダークフェニックスはある程度X-MEN作品に触れていれば見て理解することはできるかもしれませんがあくまでも新四部作の最終章なのでまずは先の3作品や旧三部作に触れることをおすすめします。
ダークフェニックスの物語は「アポカリプス」のラストから10年後、1992年が舞台となります。
「フューチャー&パスト」と「アポカリプス」を経て世間から認知され公式に認められた進化し特殊能力を得た人類であるミュータント、そしてプロフェッサーの作った「学園」はアヴェンジャーズのようにヒーローとして活躍するようになっています。
そして世間ではスペースシャトルの「エンデバー号」の打ち上げが物語の最初に打ち上げられます。エンデバー号の打ち上げ中に太陽フレアによる事故が発生し、X-MENは宇宙への救出ミッションを行います。
救出ミッションには成功したものの今回のメインキャストである「ジーン」が大量の太陽フレアを浴びてしまい裡に秘めていた「ダークフェニックス」が覚醒していくことになります。
X-MENは覚醒ダークフェニックスとどう向き合っていくのかというのが本作になります。

主要な登場人物

ジーン・グレイ=ダーク・フェニックス
今作の主要人物。能力はテレパシーとサイコキネシス
幼い時に能力の暴走を起こしプロフェッサーに引き取られ学園で育てられる。現在は学園の子供に力の使い方を教えたりX-MENの任務についていたりする。
旧三部作同様類まれなる能力の出力を持つ。
今作では宇宙飛行士救出任務に赴いた際太陽フレアを吸収したことにより能力が覚醒し今作の事件の引き金となる。

f:id:camus_bdc:20200509232646j:plain

プロフェッサー
能力者達と人類の共存を目指し能力者達が正しく社会で生きていくための学園の創始者ジーンの能力の一部を封印し今回の騒動のきっかけとなった人物。彼の行動は基本的に善意で行われているがそれが今回は大きく裏目に出てしまう。
彼の指針はミュータントと人類の共存。
能力はテレパシー。学園の地下にある増強装置を用いることで能力を全世界規模に覚醒することができる。ダーク・フェニックスを除けば最も強いテレパシー能力者。

f:id:camus_bdc:20200509232656j:plain

マグニートー
X-MENシリーズでは基本的にヴィラン。四部作では割と協調路線。三部作とは異なり渋いイケメン。
彼の指針はミュータントによる世界の支配だったが今作では隠居中。クイックシルバーは息子。
能力は金属操作。体内の中の鉄分からその辺の車、鉄筋、銃まで鉄が材料に含まれていればどんなものでも操作可能。操作といっても動かしたりするレベルではなくテレキネシスのように空中に浮かせて相手にぶつけたり銃を全て取り上げて持ち主に向け引き金を引いたりと万能にして強力。
被っている鉄製のヘルメットはプロフェッサーのテレパシーに対抗するための装備。

f:id:camus_bdc:20200509232650j:plain

 

能力バトルものはやはり戦闘シーンが派手でいい。プロフェッサーとマグニートーによるジーンの争奪戦は過去に敵味方だった陣営がばらばらにシャッフルされた戦闘で今まで闘いになるはずのキャラ同士の戦闘で非常に見どころがある。
マグニートーのゲート・オブ・バビロンや無限の剣製、ノッブの三段撃ちのような大量の銃の同時射撃はクールだ。

LOGANを見てからこうしてプロフェッサーが作中で活躍しているところを見ると非常にクるものがあった。あの最後を見てからこうしてジーンのために身体を張っているプロフェッサーを見ると根本的に善人なんだなって感じた。

いままでほとんど敵なしレベルの戦闘力を誇ったマグニートーですらダーク・フェニックスが圧倒的な力でマグニートーを薙ぎ払っているのを見るとファイナル・ディシジョンでのジーンもやばかったけどやっぱりダーク・フェニックスってやばいんだなって実感する。アポカリプスでもその片鱗は見せていたけど本当に圧倒される。
マグニートーやストーム、クイックシルバーの能力はとても優れていて作中でも屈指の強さを誇るけど今回のジーンの能力はシンプルなサイコキネシスのはずなのにとてつもない出力で化け物地味た強さを誇っていた。普通のミュータントが拳銃、強いミュータントがアサルトライフルだとしたら今回の彼女は戦車だ。まるで能力の出力が桁違いだ。
テレキネシスは物を動かすだけ、ただの念動力と書くとシンプルだが汎用性の高い能力に見えるがジーンのそれは違う。能力が及ぶ範囲にさえ居れば対象を粉微塵に変えることが出来るほどの出力がある。
たしかにX-MENシリーズ最強という触れ込みも間違いないのだろう。

ファイナル・ディシジョン、フューチャー&パストとミュータントが迫害されるのを見てきて結局こういった迫害されるような展開になるのは見てて非常に辛いものがあった。ミュータントだって人だ。室伏やボルトのように超人的な肉体を持つ人、ジョブズビル・ゲイツザッカーバーグのような天才と本質的には変わらない。
火や氷を操れたりサイコキネシスが使えるだけ、少し変わった能力があるだけなんだ。思えばタイバニでもこういうような差別、あったよね……

それはそれとしてこのオチはどうかと思う。それに結局あのヴィラン達はなんだったのか、ジーンはどうなってしまったのか、ミュータントの問題はどうなったのか、その辺りの問題の描写が結局全然なくてパッとしない。ただプロフェッサーとマグニートーが和解できた、それ一点に関しては大変良かった。何しろ1作目からほとんど敵対しあってきた元親友同士なのだから……

 

X-MEN:ダーク・フェニックス (字幕版)

X-MEN:ダーク・フェニックス (字幕版)

  • 発売日: 2019/09/25
  • メディア: Prime Video
 
X-MEN:ダーク・フェニックス (吹替版)

X-MEN:ダーク・フェニックス (吹替版)

  • 発売日: 2019/08/16
  • メディア: Prime Video
 

映画感想・紹介「スパイダーバース」オーケーもう一度だけ説明しよう

この物語はピーター・パーカーからマイルス・モラレスへの継承の物語だ。
スパイダーマンの映画作品にはサム・ライミ版三部作、アンドリュー・ガーフィールド版の二部、MCUトム・ホランド版現行メイン作品2作と色々あるが共通するのはどれも実写でスパイダーマンが「ピーター・パーカー」であるということだ。
ただしこの作品だけは違う。CG映画でありコミックで二代目のスパイダーマンを務める「マイルス・モラレス」が主人公を務めるという点だ。

オーケーもう一度だけあらすじを説明しよう

スパイダーマンであるピーター・パーカーは死亡した。
キングピンことウィルソン・フィスクは加速器によってマルチバースを用いて野望を叶えようとしていた。ピーター・パーカーはそれを護っていたグリーンゴブリンと闘い、闘いの最中に加速器が起動し、阻止に失敗し死亡してしまった。
偶然にもマイケル・モラレスはその場に居合わせ、ピーター・パーカーにスパイダーマンとしての意思を託される。

マイルス・モラレスはその場に居合わせる前日に加速器のある施設の近くで叔父さんに紹介された場所でグラフィティアートを楽しんでいた。
壁にスプレーを吹きかけている最中、一匹の蜘蛛にマイルスは噛みつかれてしまう。そう、例の放射線によって変異した蜘蛛だ。
マイルスはご多分に漏れず蜘蛛に噛みつかれたためスパイダーセンスに覚醒する。だがしかし能力に振り回されていて能力の練習のために叔父さんに紹介されてグラフィティアートをしていた場所に行く。そしてピーターの最後を看取り、意思を託されることになる。

加速器は発動しマルチバースは接続されてしまった。マイルスは未だ未熟でスパイダーセンスも壁に張り付く能力も、ウェブシューターも使いこなせない。
マイルスは接続されたマルチバーススパイダーマン達の技を見たり、教わり成長していく。全てはピーターから託された使命と、キングピンによって接続されてしまったマルチバースを元に戻すためだ。これはピーターからマイルスへの継承の物語だ。

登場人物がわからないって?オーケーもう一度だけ説明しよう

この作品には初代スパイダーマンの「ピーター・パーカー」と二代目の「マイルス・モラレス」以外にもマルチバースが接続された影響で多くのスパイダーマン(女性も居るがここではスパイダーマンとしておく)が登場する。

スパイダーマン

二代目スパイダーマンであり主人公の「マイルス・モラレス」

f:id:camus_bdc:20200419122058j:plain
中年のスパイダーマンである「ピーター・B・パーカー」

f:id:camus_bdc:20200419121803j:plain
女性スパイダーマンである「スパイダー・グウェン」

f:id:camus_bdc:20200419121806j:plain
探偵であり格闘と銃の扱いが得意な「スパイダー・ノワール

f:id:camus_bdc:20200419121810j:plain
マーベルキャラクターが動物にデフォルメされた世界で豚が蜘蛛に噛まれ能力を得た「スパイダー・ハム」

f:id:camus_bdc:20200419121816j:plain
蜘蛛を搭載したメカ「SP//dr」の操縦士でありリンクしている操縦士の女子高生「ペニー・パーカー」

f:id:camus_bdc:20200419121746j:plain

マイルス・モラレスと併せて合計6人のスパイダーマンが活躍する。

ヴィラン

ニューヨークの裏社会を牛耳る「ウィルソン・フィスク」こと「キングピン」

f:id:camus_bdc:20200419121750j:plain
天才科学者の「オクトパス」(この世界では女性なのか……)

f:id:camus_bdc:20200419121758p:plain
スパイダーマンに似た格好をした謎のヴィランプラウラー」

f:id:camus_bdc:20200419121754j:plain


特に説明することもない「グリーンゴブリン」「トゥームストーン」「スコーピオン」

と多くのヴィランが登場し、派手なアクションと戦闘を繰り広げる。

感想

マイルス・モラレスは他のスパイダーマン同様大切な人との離別を経験し、他のスパイダーマンと触れ合うことで成長していく。最初は張り付くことすら上手く行えない彼だが段々と成長していく彼は非常に見どころがある。

この作品はCG映画であることを活かしたユニークな作風が魅力だ。コミカルな表現にアクションなどCGのアニメ映画であることを最大限に活かしておりそして何よりヌルヌルと動きド派手なアクションが繰り広げられる。
マイルスにピーターB、グウェンは作画が統一されているがスパイダーノワールは白黒でノワール映画風の作画、スパイダーハムはカートゥーン風の作画にアクション、ペニー・パーカーは日本のアニメ風の作画でめちゃくちゃ可愛い。ペニー・パーカーは絶対オタクは好き。

この作品はアベンジャーズとは、MCUとは違った魅力がたくさん詰まっている。スパイダー映画の総決算とでも言えるだろう素晴らしい出来だった。是非ともまだ見ていない人には見てもらいたい。既にAmazonVideoでのレンタルが開始されている。
私は吹替版を見たが声優も非常に豪華で違和感はまったくなかった。字幕版を見るとまた違うのかもしれないが少なくとも吹替版も素晴らしい出来だった。

この作品を見て作品のようなアクションを体験したいと思った人にはPS4の「Spider-Man」がおすすめだ。オープンワールドのアクションゲームの中でもトップの完成度を誇り移動すら楽しめるように昇華されているのでこちらも是非とも遊んでもらいたい。

 

スパイダーマン:スパイダーバース (字幕版)

スパイダーマン:スパイダーバース (字幕版)

  • 発売日: 2019/06/26
  • メディア: Prime Video
 
スパイダーマン:スパイダーバース (吹替版)

スパイダーマン:スパイダーバース (吹替版)

  • 発売日: 2019/06/26
  • メディア: Prime Video
 
【PS4】Marvel's Spider-Man Value Selection

【PS4】Marvel's Spider-Man Value Selection

  • 発売日: 2019/03/20
  • メディア: Video Game
 

 

 

小説紹介感想・百合「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」ガス惑星巨大ロケット百合

「アステロイドに花束を」に掲載された小川一水の短編、「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」が長編作品として3/18に刊行された。
短編の時点でさえ濃密な世界観に強烈な百合だった本作は長編として編み直されよりその世界観を広げ密度を増し、より破壊力の高い作品として戻ってきた。イラストは「これは学園ラブコメです」でも素敵な挿絵に表紙を描いた「望月ケイ」さんだ。
言うまでもなくこの作品は「StrongYuri」である。

f:id:camus_bdc:20200319020413j:plain

短編版掲載短編集の紹介はこちら。

 

「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」について

時は人類が「星系短絡機関・光貫環」により太陽系脱出が進んだ未来。(ただしこの辺の設定はあまり関係しないのでひとまず忘れてもよい)
舞台は「巨大ガス惑星 ファット・ボール・ビーチ」という文字通り土星の輪のようなガスだけで構成された惑星。
ガスだけで構成された惑星ゆえに人々はこの星に移住してもなお定住の地を持たず16の氏族が拠点となる巨大氏族船を建造しそこで生活のための糧を得て生活していた。
氏族船はそれぞれ別のルートで惑星を周回し2年に1度集まり氏族会議を行い、お互いの2年間での獲得資材を分配しあい、多様性を維持するためにお互いの氏族とのお見合いなどを行っている。

氏族はそれぞれのルートで惑星を周回しながらこの星で取れる、未知のリチウム同位体や資源、窒素・塩素・硫黄・リン・鉄・亜鉛などから構成される「昏魚(ペッシュ)」を漁を行うことで獲得しそれを加工することで生計を立てていた。

漁は二人乗りの漁船「礎柱船(ピラーボート)」という船で行われる。
ピラーボートは全質量可換粘土(AMC)という物質で構成されておりそれを「デコンパ」と呼ばれるAMCを自在に操作しピラーボートを変形させる存在と船を操縦する「ツイスター」によって行われる。
古くからデコンパは女性、ツイスターは男性、そしてその二人は夫婦というしきたりとなっていた。

本作は氏族会議の終了間近から始まる。主人公であり貴重な漁船の持ち主である「テラ・インターコンチネル・エンデヴァ」が幾度目かのお見合いに失敗ししょぼくれながら帰ってき、ダイオードという少女と出会うところから始まる。

二人と、二人の関係性

「テラ・インターコンチネル・エンデヴァ」について

テラは24歳にして両親の遺産であるピラーボートを持つ長身にして非常に女性的な体型のデコンパである。
彼女は通常のデコンパとは少々違い、端的に言うと変わっている。
普通のデコンパは学校で習う定形の網を作り漁の戦術を練るところ、彼女は自身の知識のままに、妄想のままに網を作る。他のデコンパが普通にできることが出来ない代わりに彼女はいつだってその場その場で自由に戦術を組み立てることが出来る。
ただしそんな彼女についてこれるツイスターはダイに出会うまで誰一人として存在しなかった。

そして彼女にはもう一つ特徴がある。保守的な氏族社会の中で育ち、その常識を当然のモノと受け入れている。氏族にとって、そしてそれは彼女にとっても。デコンパとツイスターは夫婦で、女は男と結婚して子をなし、血と遺産を受け継いでいくのが当然で、当たり前で、常識だ。そう教えられて育ちそれを受け入れてきたからだ。

奇しくも現代の保守的な村社会や古い価値観と相似している。
彼らにとって知らないものは怖く、変化は危険なことなのだ。

彼女の価値観は外部から新しい情報を得ることがきっかけで変化する。本当にしたかったことに、欲求に気づくと言ってもいい。

その変化をもたらす存在こそがダイだ。

「DIE-Over-Dose ダイオード」について

ダイオード、通称ダイさんは18歳で低身長、そして痩身の少女である。
銀髪に青い瞳をし、常に丁寧語で話すが時々感情的になると汚い言葉が出る少女にして、稀有な「女性ツイスター」だ。

彼女は氏族会議の行われている期間に、そしてお見合いの失敗したダイの元に突然現れた。
ダイはテラがお見合いの際に行った漁を見て彼女と一緒に潜りたいと決めたようだ。

彼女は正体不明で、ぶっきらぼうで、猫のようだ。
そしてダイは既存の価値観に囚われない存在だ。その存在が、テラに刺激を与える。

不器用で強がりな彼女はとても可愛い。彼女が既存の価値観に囚われないことにも、ツイスターに拘ることにも理由はある。
短編では語られなかった彼女の物語がこの単行本版の本作には詳しく描かれている。

彼女について詳しく知りたい場合は作品を読むといい。

二人の関係

二人は互いに互いが持ってないモノを持っていて補い合える関係にある。
最初は気を全く赦さないダイも徐々にテラの包容力に負けていく。テラの包容力はその身長と比例してとても大きい。そして世話好きだ。

奇抜な発想と豊富な知識量に洞察力でデコンパを行うテラと巧みな操縦技術に常に冷静なダイ。
二人は凸凹が上手く噛み合ったいい関係性と言えるだろう。
そしてそのテラのその柔軟性は変化を恐れず貪欲に新しいことを取り込んでいく。
某空鳥と違い安定性のある二人だ。彼女たちがこれから目的に対してどう取り組んでいくのかはとても興味深い。
そしてある漁師の存在との相似も。

感想

短編版をデコンパしてより濃密にした作品に仕上がっていた。濃密で、濃厚で、深い広がりをもった世界観になっている。
中でもダイの掘り下げは非常に良かった。出発点と着地点が理解っていても読者を退屈させることのない設定を加え、それが化学反応を起こしより素晴らしいものとなっていた。古い価値観と新しい価値観、大と小、男性と女性、様々な要素が対比になっているように感じた。当然テラとダイも対比になっているのだろう。
個人的にはテラのダイに対する感情の吐露やダイのブチギレポイント、あとは前もよかったあのシーンがよかった。あとはラテックスのくだりとか。ダイが子供っぽくなるところとかも。素敵がいっぱいかよ。
売上がよければ続編か関連作が刊行される可能性もあるらしい。是非とも購入して少しでも可能性を上げてもらいたい。私は彼女たちのその後よりもこの世界観での短編や他の氏族の話も読んでみたい。
裏世界ピクニックを気に入った人ならばきっとこの作品も気にいるだろう。私はおすすめしたい。

裏世界ピクニックの紹介記事はこちら。


 ちなみにテラとダイの身長差はこれくらいらしい。ダイがテラに抱きつくと丁度胸に顔が当たるくらいの身長差。いいよね、身長差カップル。

 

ゲーム感想・プチレビュー「スターウォーズ ジェダイ:フォールンオーダー」

グラブルで古戦場をしたりデスストを延々と進めたり古戦場をしたり仮面ライダーを見たりしていて始める機会を逃していたジェダイ:フォールンオーダーを初めて終えたので軽くレビューしていく。

ジェダイ:フォールンオーダーとは

ジェダイ:フォールンオーダーは昨年新3部作が完結し話題となり(話題というより物議を醸したと言ったほうが正しいが)全9作となったスター・ウォーズの外伝作品となるゲームだ。
この作品はEP3からEP4の間、EP3が終わりクローン戦争の最中に発令された「オーダー66」と呼ばれるジェダイ殲滅作戦が行われ帝国が猛威を奮っている時代の出来事だ。

オーダー66はトルーパーに密かに仕込まれた指令だった。この指令が発令されるとクローン戦争を戦っていたジェダイは味方のハズのトルーパーに背後から、味方の陣地の中から突然起きた攻撃に多くのジェダイが死亡した。銀河系の守護者たるジェダイの集団、ジェダイ評議会は実質的に崩壊してしまったのだ。

主人公である「カル・ケスティス」はオーダー66から逃れたジェダイ訓練生であるパダワンの一人だ。
オーダー66が発令された際はまだ幼くジェダイとして訓練の途中であったカルはジェダイであることを隠しスターシップの解体作業に従事し日々の糧を得ていた。
ある日カルは友人であり同僚を助けるためにフォースを使用してしまった。そのためにジェダイ刈りの実行部隊であり指揮官でもある帝国の尋問官「ナイト・シスター」の一人、「セカンド・シスター」に発見されてしまう。
友人は尋問官に殺され自身も殺めらそうになった時、元ジェダイである「シア・ジュンダ(目が飛び出て居て怖いが気にしてはいけない)に助けられ彼女とその相棒であり宇宙船「スティンガー・マンティス」の船長である「グリーズ・ドリタス」と共にジェダイ評議会復興のための旅に出ることになるのであった。

ゲームシステム

本作はメトロイドヴァニアのような要素を持った3Dアクションゲームだ。数ある惑星のいくつかを旅し、フォースを習得することで新たなスキルやアクションが開放され進める道やギミックが増えていくというシステムだ。

3Dアクションにも種類があるが種類としてはソウルライクなシステムに近い。惑星を探索しながら敵と対峙してボスを倒していく。そして雑魚からボスまで油断すると死亡するという骨太の難易度だ。ただし難易度自体は選択が可能なため難易度を下げると戦闘自体が無双の雑魚敵と対峙したような難易度になるのでアクションが苦手な人にも安心である。
そして戦闘システムとしては隻狼のように敵の攻撃をジャストタイミングで受け止め弾くことで戦闘を有利に運んでいくというものだ。
自身と敵にはスタミナが設定されていて防御行動を行う度にそれは減っていく。相手の攻撃を弾くことで自身のスタミナを減らすことなく相手のスタミナを大きく削ることができるのだ。相手のスタミナを削り切ると相手には大きな隙が生まれる。つまりは隻狼でいう忍殺のように大ダメージを与えることができる。
普通の攻撃を防御させる、攻撃を弾く、フォースを利用する、この3つの行動で敵を攻略していくのは非常に楽しい。敵にはそれぞれ大きな隙が出来る攻撃や弾くとより大きく体力を削ることができる攻撃など弱点が設定されている。これは敵を倒したときに獲得できるデータを見るかトライアンドエラーで見つけることになる。効率よく敵を倒せるようになれば君も一人前のジェダイになることができるだろう。

主人公カルはジェダイの弟子「パダワン」であるためジェダイと同等の行動が可能だ。映画作中で可能なことはだいたい出来ると言っても可能ではないだろう。フォースで敵を吹き飛ばしたり敵を静止させる、物をその手に引き寄せる、敵の射撃を弾き返す、君はジェダイになることが出来るのだ。
それだけでスターウォーズファンには価値のある作品だろう。

惑星の探索にしてもそうだ。ジェダイ寺院やダソミアなど本編で明らかにされた場所に自身の脚で趣き探索することが出来る。
当然そこには現住生物が居たり独自の生態系がある。多くのロケーションを体験することが出来そこにあった文明や生態系について詳しく知ることも出来るのだ。これは刺激的な体験である。

最後に

本編ありきの外伝作品のためファンサービスが非常に多い。具体的な名称は避けるが本編で登場する人物が出てきたり関連する人物が出てきたりだとか掘り下げがあったりする。
ただしこの作品はスター・ウォーズを履修していない人にはシナリオを楽しむことは難しいだろう。そういう人は今見ると古臭さもあるが本編の1~6を履修してからこの作品を楽しんで貰いたい。
個人的にはとても楽しめた。カルと相棒であるドロイドのBD-1のやり取りやアクション、シナリオ、ロケーション、データ、どれも楽しめるものだった。
主人公の服装の変更、ライトセーバーのカスタマイズも細かいがとても嬉しいものだ。
ライトセーバーのカスタマイズは柄からスイッチ、先端など複数の箇所をカスタマイズし自身専用のライトセーバーを作ることができる。これはライトセーバーへの愛着が深まること間違いなしだろう。

欠点としてはマップの完成やデータ、宝箱収集などが非常に面倒だ。
最初に行ったタイミングでは取れない宝箱を終盤になってから執拗なまでに探索しないと見つけることができないものが多いからだ。
それ以外の欠点はあまり見つからなかった。非常に完成度が高くEAにしては追加コンテンツや課金無しで完全に楽しめる作品だったというのも大きい。

アクションや世界観が好きなスターウォーズファンには是非とも楽しんで貰いたい。そしてラスボスに絶望するといいだろう。

Star Wars ジェダイ:フォールン・オーダー - PS4

Star Wars ジェダイ:フォールン・オーダー - PS4

  • 発売日: 2019/11/15
  • メディア: Video Game