映画感想「JOKER」
最初の投稿を「アステリズムに花束を」にするか「なめらかな世界と、その敵」にするか悩んで早一週間。結局出した答えは記憶が風化しないうちにJOKERのことをネタバレ抜きに……とも思いましたがネタバレになるようなことは実質無かったので終盤のアレに触れない程度に書いていこうと思います。
簡単なあらすじとしては脳に障害を抱えながらもコメディアンを目指す男「アーサー・フレック」がピエロとして障害を持った母親を養いながら日々暮らしていくための金を稼いでいくが……という内容です、またこの作品はバットマンの外伝的な立ち位置でヴィランの誕生を描くという異端の内容になります。
まずホアキン・フェニックスの役作りと演技がずば抜けて素晴らしいです。役づくりのために20kgも痩せたというその体型も、滑稽な笑い方も、その全てが素晴らしかったです。演技についてもアドリブが多いらしくアーサーに適した奇抜な演技が冴えていました。
社会的な評価、というよりいろんな人のレビューやら評価を見ていると「誰しもジョーカーになりえる」とか「ジョーカーに共感してしまう」みたいなことが多く書かれているのですが私には全くそうは思えない内容でした。
アーサーは不条理な出来事が重なった挙げ句に誤って殺人を犯してしまいそこから階段を転げ落ちるように悪の道化へと変貌していくのですがそこに良心の呵責や躊躇いは一切なく、初めからまともな道徳や倫理の欠けているようで社会で今普通に生きている人間が誤って人を殺めてしまっても彼のようになることはないでしょう。
また、彼は重度の妄想癖があるようで作中でも実際に起きた出来事と妄想が入り混じっています。矛盾した出来事が起きたりアーカム・アサイラム(舞台となるゴッサムシティで一番大きい精神病院)での描写も垣間見えます。
彼は何かがきっかけで狂ったわけではなく、最初から狂っていた彼が普通を演じていた……それが理不尽な出来事や殺人をきっかけに正しく狂っていきジョーカーに変貌していく、まるで神から啓示でも受けたかのように……彼は過ちを犯すまでそういう生き方を知らなかった、そういう手段を知らなかった。それだけの話しだったのです。
生きていれば理不尽なことや酷い出来事の一つや二つは人間誰しも経験をするでしょうがそういう経験をしてもジョーカーになるようなことはないでしょう。だって社会で普通に生きる我々にはまともな倫理や良識、常識があるのですから。
作中では大規模なデモが起こります、そのデモの参加者はアーサーが起こした事件の記事を見て事件の目撃者の証言から犯人はピエロの格好をしていたと知りピエロをイコンとして祀り上げます。デモの参加者は政治への不信感や不満を爆発させピエロの格好をしてデモを起こすのですが彼らは奇しくも喜劇王の言う通り「民衆は誰しも刺激されるままに進む巨大な首のない怪物になりえる」という状態になります。より良い世界を目指したいという市民と政治家、善意と悪意コインの裏表のようで大変皮肉じみていました。デモが起きずに次の市長候補が無事に市長になっていたらデモの参加者も無事に救済されたかもしれないというのが最大の皮肉です。
あとはバットマンの外伝映画ということで将来バットマンとなる人物、少年時代のブルース・ウェインが登場したりアルフレッド・ペニーワースが出てきたりもします。次の市長候補というのもブルース・ウェインの父親のトーマス・ウェインです。
一作で完結する映画ということでバットマンに興味のない人が見ても色々考えさせられたりいい経験になると思います。是非とも見てください。普段映画をあまり見ないひとからしたら衝撃的な内容でしょうし大変おすすめです。ただし精神的に不安定な状態での視聴はあまりおすすめしないのでご注意ください
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