色のない緑色の考えは曖昧に記述する

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本・ゲーム・映画等感想レビュー及び雑記

小説感想・紹介:野崎まど「[映]アムリタ」

野崎まど

野崎まどという小説家を知っているだろうか?2009年に電撃小説大賞に新設されたメディアワークス文庫賞を受賞し新設されたメディアワークス文庫からデビューした作家だ。
彼女は一作目からその悪魔のような才能を存分に発揮し、電撃文庫ではそのユーモアで読者の腹筋を捩じ切り、ハヤカワ文庫から出した「Know」では第34回SF大賞候補作品、そして2017年にはアニメの構成・脚本、2019年にはアニメ映画の脚本とデビューとデビュー以降華々しい軌跡を描いている作家だ。

今回紹介するのはデビュー作である[映]アムリタだ。

あらすじ

主人公である芸大生(おそらく武蔵美)の役者コースに所属している「二見遭一」は同期生であり美人で気になっている「画素(かくす)」さんから自主制作映画の俳優として出演して貰えないかと声をかけられる。

下心から二つ返事で引き受けた。
その映画は学内1の天才と呼ばれる美少女後輩「最原最早(さいはらもはや)」が監督を務める映画だ。
絵コンテを受け取り読み始めると主人公は2日と半日ほど絵コンテを取り憑かれたように読み込み続けていた。食事をすることもなく、睡眠をすることもなく、排泄もすることもなくただひたすらにその絵コンテを読み続けていた。

あまりの出来事に製作者に絵コンテについて尋ねるとその絵コンテの原案は「最原最早」の死んだ恋人の遺作だと言う。
主人公はその背格好や顔がその死んだ恋人にそっくりだから代役に選ばれたそうだ。
悩んだものの主人公は映画撮影に参加していく……

ここまでが野崎まどの紹介と作品のあらすじ。

ここから先はネタバレやら何やら諸々を含む感想です

野崎まどは悪魔です。人は食べませんし生贄の儀式もしませんが悪魔です。
間違えました。悪魔のような作家です。そして素晴らしい才能の持ち主です。

本編はある意味SF小説とも言える作品です。最原最早の作る映画の作る映画は映画と言えるかは賛否分かれる。ただし映像作品ではあった。
彼女の作る作品はまるで実際にサブリミナル効果があるように人の心を直接動かした。感情そのものを操作した。

そんなものは現実にはありえない。だけれども「最原最早」はそれを成し遂げた。
正真正銘の天才と言えるだろう。
見たら死ぬかもしれない映画、そんなものがあるのであるのであれば、あるならば、私は見たいという衝動をきっと抑えられないだろう。

それはそれとして「最原最早」はかなりの変人で嘘つきだ。とても好みだ。大変すこ。
ビジュアルも含めて。

最後に疑問なのだけれども、「二見遭一」はいつ「最原最早」の映画を最初に観たんだろうね?
「二見」は映画を役者の演技で見ていたと表現されていたが作中では既に他の味方をするようになったとバイト先の店長に指摘されている。もしかして、「二見」は作品が始まる前に既に「最原最早」に作品を見せられていたんじゃないだろうか?
真実を知る術は無い。ただしそうだとしたら、最初から、映画撮影に参加することも仕組まれていたことになる。なんて出来ゲームで、「最原最早」の手のひらの上なのだろう。

メディアワークス文庫は手軽に読める文量で密度の濃い作品がとても多い。ジャンルを問わずバリエーションも多い。ラノベよりは真面目な文芸で最近のラノベに辟易した人でも楽しめるだろう。
何か軽く小説読みたくなった時にはおすすめだ。是非とも気になった作品を手にしてもらいたい。特に「野崎まど」「入間人間」「有川浩」「壁井ユカコ」「柴村仁」辺りの作者の作品がおすすめだ。

 野崎まどの新刊「タイタン」は2020年4月に刊行済みです。よかったら是非こちらもどうぞ。

野崎まどのメディアワークス文庫作品の終着点、「2」の記事はこちら

[映]アムリタ 新装版 (メディアワークス文庫)

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  • 作者:野崎 まど
  • 発売日: 2019/09/25
  • メディア: 文庫
 
タイタン

タイタン