色のない緑色の考えは曖昧に記述する

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本・ゲーム・映画等感想レビュー及び雑記

小説紹介・感想「大恐竜絶滅タイムウォーズ」草野原々 

令和元年に生まれた怪文書=草野原々season2最終章「大絶滅恐竜タイムウォーズ」

以前に記事とした「大進化どうぶつデスゲーム」の続編に当たる作品です。
当たってしまう作品です。
それが「大絶滅恐竜タイムウォーズ」

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前作の怪文書はこちらになります。
冒頭に草野原々さんについての説明があるのでこちらから読みたいという数奇方は草野原々さんについての部分くらいは読むと良いと思います。


他の人の感想を読んだり色々と意見を漁っているとこちらから読んでも問題ないという趣旨の感想もあったのですが私は素直に前作から読むことにしました。だって前作を先に購入していたから。

冒頭からぶっとばしている。前作を読んでない人にすら前作にあった出来事を当然していますよね?はい、知っています。という体で作品が進む。冒頭から既に怪文書なのでこの記事が怪文書になるのも仕方がない。納得しましたね?それでは私の感情を想像して、共感して感情移入して続けて行きましょう。

まずね、前回に引き続き邪悪なシンギュラリティAI「シグナ・リア」が登場してくるわけだけれど、なんと、今回は

登場人物のDNAを直接改造して肉体から武器を現出させたりします

意味がわかりませんが何が起きたかは理解したはずです。続きます。

この作品はメッタメタなメタファーどころか第4の壁を突破してきます。何者かは私には知りえませんがきっと最後まで作品を読めば理解できるのでしょう、その「何か」がかなり頻繁にこちらに対して語りかけてきます。深いことは考えずに指示に従いながら読んだほうがいいかもしれません。どうぶつデスゲームに巻き込まれてしまうかもしれませんから。それから唐突に物語論などが始まってもあまり気にせずに読み進めても大丈夫です。「学園ラブコメ」のようなものですから。

次に前作からの作品性の方向転換です。とりあえず雑に人が死にます。正体不明の語り手曰くどうでもいい登場人物は早々にどんどん死んでいきますが正直前作も顔と名前が一致しない人物だらけだった上に18人も居たので問題はないでしょう。覚えやすくなっていいですね。それと覚えておくのはミカと早紀と王子様だけでよくなりました。それに加えて前回の経験からか登場人物のどす黒い感情がわりと強化されています。頻繁に「死ねばいいのに」とか思っている人がいるので物騒ですね。

物騒なのは登場人物だけではありません。進化して環境に適応したと思われる生物達も大変物騒です。鉤爪の生えた蝙蝠のようなものから空中を飛んで子孫をばら撒いていくマンボウのような生物、凶暴ペリカンのようなものまで多種多様に進化した生物が襲いかかってきます。なので雑に人が死にます。

ちなみにこれは過去に飛ぶ前の現代が他の知性宇宙に侵食されてる時点のことです。
この後にもきっと心をくすぐる未知なる冒険的な出来事がたくさん起きるのでしょう。楽しみですね。

 

今回の舞台は白亜紀です。
もう駄目です。よくわかりませんがもう駄目です。理解の範疇を超えました。
ヒト知性が今回のデスゲームの敵対知性であるトリ知性に侵食されすぎてキャラクターが行動原理を失ったりしてます。もうどう表現したらいいかわかりません。私の知性か語彙が足りていないのか、草野原々の知性がマッハで回転しているのかわかりませんが色々よくわかりません。

 

 

 

 

もう共感もクソもねーな!?

私は落ち着いた。落ち着いた。これは間違いなく草野原々だ。やつの仕業だ。
こいつは「ワイドスクリーン百合バロック」だった。間違いない。
私は油断していた。大進化どうぶつデスゲームが物語としてまともだったけどこいつは「最後にして最初のアイドル」の部類だ!人間には早すぎる!最高だ!
草野原々に私が求めていたのはこれだよこれ!って感じ。
そしてこれはあれだ、伊藤計劃の「harmony」。あの小説の本来の読み方というか正しい表現に従って読み起こされる感情の想起に近い。私は今ミカの、早紀の、彼女らの感情を追体験を感じその行動を体験している。

草野原々の知性が暴走をしている。まるでカルノーサイクルのように物語が展開していく。
こんな作品を書けるのは彼以外居ないだろう。テッド・チャンでもこんな作品は作れないだろう。

人間反物質爆弾最高。

この物語は超絶技巧を持って作られた入れ子人形だ。超時間超越マトリョーシカだ。
「大進化どうぶつデスゲーム」ですら超時間超越マトリョーシカの一部だった。なんてこった、一杯どころかとんでもないものを食わされてしまった。

「そうか、そういうことだったのか……」

ミカと早紀は百合である。否、この物語においてミカと早紀という記号こそが百合なのだ。

この作品は読み進めていくうちはWeakYuriだと考えていた。だがしかし違ったのだ。
この物語はWeakYuriでありStrongYuriでもあったのだ。WeakYuriの頭を持ちStrongYuriの尾を持つ身喰らう蛇だったのだ。

こんなとんでもない試みをよく編集部は出版に踏み切った。よくも溝口力丸は正気でいら……いや、彼曰く常に狂っていることで狂わずに居られるのだったか。
とんでもない挑戦的な作品だ。物語の構造自体に挑戦するような作品だ。
ある意味とんでもない読書体験だったが私はこういう小説も美味しく頂ける。雑食なんだ。
これからの草野原々の小説にも期待したい。そしてそれが刊行されたら私はこりもせずにそれを購入して読むことだろう。

君も「大進化どうぶつゲーム」「大絶滅恐竜タイムウォーズ」の輪廻に囚われるといい。大変おすすめだ。好きとか嫌いとか言ってないでとりあえず読むといい。話はそれからだ。
そしてその数奇な読書体験に疲れたならば私達には宮澤伊織が居る。「裏世界ピクニック」がある。安心してSDPを摂取するといい。
「アステリズムに花束を」もおすすめだ。あそこにも素晴らしい癒やしがある。とくにふかふかおっぱいは長編が企画されているらしい。大変期待が持てる。
そしてそこから伴名練の「なめらかな世界と、その敵」に行くのもおすすめだ。2019年の読書体験を謳歌できるだろう。

 

そして草野原々さんと溝口力丸さん!令和元年の最後の最後にとんでもない爆弾を投下してくださりやがって大変感謝していますこの野郎。

大絶滅恐竜タイムウォーズ (ハヤカワ文庫JA)

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